オレを守るだと!
笑わせんな!百万年早え!
浮かんだ言葉はたしぎの瞳の前に
発せられることもなく、飲み込まれた。
胸の傷の奥がギュッと掴まれたように熱くなる。
たしぎの指先が手に触れた時、
この胸に引き寄せたいという衝動を
抑えるのに必死だった。
ベッドに寝転がり、目を閉じると、
たしぎの真っ直ぐな瞳ばかり浮かんでくる。
なんてこと言い出すんだ。
驚かせやがって・・・
真顔で、オレを守るなんて言うヤツは、あいつぐらいだ。
ふっと、身体の力が抜けて、
いつの間にか、笑うように眠っていた。
******
たしぎは、キッチンで夕食を作っていた。
「お前がオレを守るだと?笑わせんな。」
当然、帰ってくると思っていた言葉はなく、
驚いたように見つめ返すロロノアの顔だけが胸に焼き付いていた。
怒ったんだろうか。
馬鹿にされると思ったが、言わずにはいられなかった。
わたしにだって、守りたいものがある。
どんなに笑われようと、この手で守りたいものが。
いけませんか。
あなたをも守れるほどに、強くなりたい。
ぐるぐると巡る思考の中、
予想以上に夕食が上手く出来た。
テーブルに盛り付けた料理を、たしぎは、満足そうに眺めた。
*****
そっと、寝室に足を踏み入れると、
ゾロは、背を向けて寝息をたてている。
「ロロノア・・・」
声をかけようとして思いとどまる。
たしぎは、上から覗き込むように顔を近づけた。
なんて、無防備な寝顔。
これが魔獣と恐れられた、海賊狩りの男の顔なんて。
そういえば、私、年上でした。
自然とたしぎの顔が緩む。
こんな、あどけない顔で・・・
しばらく時が経つのも忘れ、眺めていた。
もう一度、「ロロノア。」と声をかけると、
ゾロが、弾かれたように飛び起きた。
「どぅあっ!!!なっ、なんだ、急に!」
飛び退いて、振り向くと、口をパクパクさせて、抗議する。
「てめぇ、寝込みを襲うなんざ、卑怯だろっ!」
「襲ってなんかいません。時雨だって、抜いてないんですから!」
「そういう意味じゃなくてっ!」
胸を押さえながら、大きく肩で息をする。
「そう、夕食出来ましたよ。冷めないうちに、どうぞ。」
にこりと笑うと立ち上がって、寝室を出ていく。
たしぎは、あの寝顔は自分の胸にしまっておこうと思った。
後に残ったゾロは、たしぎの後ろ姿を見つめたまま、
こいつの方が、よっぽど厄介だと、感じていた。
〈続〉